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リロノウネリ

心理学徒によるサブカルチャーから哲学まで全てにおいて読み違える試み

読書コンプレックス‐Renta!というアプリのCMから

Renta!というマンガレンタルアプリのCM

Renta!というマンガレンタルアプリのCMで、マンガを読んでいる女性(麻生久美子)に意識高い系の男がビジネス本を勧めるものがある。女性は男性に引きつった表情を見せ「難しい本読んでれば、マンガ読むよりエラいんですか?」という文字が画面いっぱいに表示される。最後には女性が部屋でまったりとアプリでマンガを読み、ゲラゲラと笑う。

www.youtube.com

私はこのCMにいつも違和感を覚えていた。彼女がこの男性を暗に批判することへの違和感ではない。そうではなくて、その批判の中に現れている錯誤への違和感だ。

ビジネス本=難解という錯誤

CMのなかではビジネス本と難しい本がイコールで結び付けられている。少しでも本を読む人ならビジネス本は難しい本とは考えないはずだ。これにはゲラゲラと笑わずにはいられない。しかし、この錯誤は笑って見逃せるものではない。この画面いっぱいに広がる批判は、本当にこのような意識高い系にのみに向けられているのだろうか。

ビジネス本を難しい本と取り違えるような人が、文芸書や人文書に向ける視線を想像してみよう。恐らく、漫画や雑誌以外のほとんどの本を難しい本とみるのではないだろうか。このCMが笑い飛ばそうとしているのは意識高い系だけではない。全ての読書家が笑われている。

偉そうに本を勧めるその態度が気に食わないのだ、と言う人がいるかもしれない。しかしそれでは「難しい本読んでれば、マンガ読むよりエラいんですか?」という問いは出てこないはずだ。難しい本>マンガという構造はこの女性が元々、心に持っているものだ。そしてこの構造が彼女にコンプレックスを与える。

彼女は、部屋でまったりとアプリで漫画を読み、ゲラゲラと笑う。しかし一点の曇りもなく楽しんでいるのならば「難しい本」を読む男の発言に顔を引きつらせることもなかったのではないか。彼女はどこかで、アプリで漫画を読む自分を蔑んでいる。

このコンプレックスを解消するためには、難しい本を読む人を批判すればいい。だから彼女は「難しい本読んでれば、マンガ読むよりエラいんですか?」と問う。もちろん難しい本読んでれば、マンガ読むよりエラいわけではない。でも本当は誰もそんなこと思っていないのだ。

CMは現代社会を映し出す

ここまで行ったのは、あくまでRenta!のCMの考察である。麻生久美子はもちろん、一般の女性(男性)が悪いわけではないし、CMが打ち出したいテーマとして内容は仕方がないということもあるだろう。しかしCMは広告代理店が作る。彼らは大衆の現在に正確に同期する。本当は大衆をバカにしながら、である。

news.nifty.com

しかしそれならば、このCMを見てスカッとする人も多いのではないか。そのスカッとした人こそが麻生久美子演じるこの女性と同じコンプレックスを抱えている。

志らく炎上から見る読書コンプレックス

最近も、立川志らくの本を読まない若者に対する発言が炎上した。

本を読みたくないという若者については「つまんない人生歩めば?」と匙を投げるコメントを投げかけ、スタジオの笑いをさらっていた。

news.livedoor.com

この言い方は(人を惹きつけるにしても)どうかとも思う。だからといって、炎上するほどのものだろうか。以下がその炎上した模様だ。

12. 匿名 2017/04/06(木) 17:56:55 [通報]
つまんないかどうかはあんたが決める事じゃない


13. 匿名 2017/04/06(木) 17:56:55 [通報]
本以外にもメディアは色々とあるのを知らないのかな?


14. 匿名 2017/04/06(木) 17:57:00 [通報]
本読んでるのに何でそんな嫌みったらしい言い方出来んの?

【女子の反応】有名落語家「つまんない人生歩めば???」本を読まない若者をバッサリ : ガールズ速報 がるそく!

例えば、志らくが「落語を聞かない若者は、つまんない人生歩めば?」と言ったとする。果たしてその発言は炎上するだろうか。「落語なんて聞かねえwww」という意見は出るかもしれないが、炎上はしないだろう。

私たちは(特に読書をしない人間は)本に対する過剰な思い入れを感じているのではないか。だからこそ、読まないことにコンプレックスを抱えてしまう。そのコンプレックスを解消するために読書を無意味なものとし笑い飛ばそうとする。もし人々が落語にコンプレックスを抱えているのなら、先ほど仮定した落語発言も炎上するはずなのだ。

引用した「14. 匿名」なんてハイパーだ。「嫌みったらしい言い方」は本読む読まない関係ないだろう。彼は落語家だ。キャッチーな言葉を使うのは職業柄だろう。本当に「本読んでる人は嫌みったらしい言い方をしない」と思っているのだとしたら「読書幻想」も甚だしい。本を読むことに対するコンプレックスがむき出しになっている文章だと言える。

アーキテクチャから見えてくる批判形式

14のような批判形式はツイッターなどでよくみられる。例えば、今年2月に上野千鶴子が「日本人は多文化共生に耐えられないから移民を入れるのは無理。平等に貧しくなろう」と言って炎上した。

togetter.com

上野の炎上に対し「上野を炎上させるような人が多文化共生していけるとは思えない」というようなツイートがあった。これも14と形式は同じだ。こちらの方が説得力があるが「多文化共生=他者に無批判になること」という暴論を密かに導入している。

「上手いこと言っている風」だが全く論理的でない。もしかしたらツイッターや2ちゃんのような長々と書けないアーキテクチャではこのような形式が威力を持つのかもしれない。しかしそれは感情的になっているに過ぎない。

なぜそんなに熱くなってしまうのか、そこに目を向けるべきだ。そうすることでコンプレックスの存在が、つまりは自分自身の問題が浮かび上がってくるはずなのである。

私は、批評が嫌われる理由もこれに関連していると考えている。しかしその説明を入れると長くなりすぎてしまう。後日に譲ろう。

 

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